794人が本棚に入れています
本棚に追加
別に女の前でもいい子にしているつもりはある。
どうでもいい話を、さも興味ありげに相槌入れて聞いてあげるのだから。
私に友達と呼べる人が少ない理由はそこにある。
私のすべてを理解しろとは言わない。
友達だと私のことをいうのなら、私のあり方を認めなさい。
そんな上から目線なものが私の中にあるだけ。
ちなみに、もちろんこんなことは男には言わない。
気がつかせない。
女にはすぐにバレる。
バレる程度のかわいいものだと思って欲しい。
「貴弘先輩、照れちゃってかわいいですね。茜のこと、本当に好きなんですね」
私は笑顔で冷やかすように、それとバレないように口にして。
内心、この男を落とすと決めた。
別に貴弘くんに興味はない。
背も顔も何もかも並だと思うから。
悪くはないけど、並だ。
落とす行程を楽しむ遊びだと思ってくれたらいい。
茜のもの?
なにそれ?
友達の彼氏?
え?わかんなーい。
つまりは、そういうこと。
誰かのもので、ラブラブであればあるほど、張り合いがある。
つきあったばかり、なんていう、穴もあって入り込みやすい。
私は茜には何も言わずに貴弘くんの行動範囲をそれとなく聞き出す。
茜は思ったとおり、よく知らない。
奪うのなら、その彼女の知らない場所でが基本だろう。
まぁ、必ず落とせるほどの美貌は私にはない。
そこに安心してね?茜。
用事はないけど、用事のあるふりをして、その渡り廊下で貴弘くんとすれ違う。
ぺこりと笑顔で会釈すると、貴弘くんは私に気がついた。
「あ。茜ちゃんの友達の…」
「上坂友梨音です。貴弘先輩、ユリちゃんとでも呼んでくれます?」
「それは…、ちょっと…」
恥ずかしそうに貴弘くんは少し俯いて、軽くはなさそうだと踏んでみる。
私は笑って、なんでもないこと、聞き流してくらいの印象を与えて。
それでも貴弘くんに興味でもあるかのように、ちらちらと恥ずかしげに見つめて、口許を隠してぶりっこ。
乙女な女の子な、かわいい後輩を演じてみせる。
まずは彼女の知らないところで親しくなりつつ、小さなアピール。
最初のコメントを投稿しよう!