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茜の知らないところで、偶然を装って会うこと数回。
「あ。上坂さん」
貴弘くんは私を覚えて、私に声をかけてくれる。
私は茜の真似をするように、貴弘くんに笑顔でバタバタと手を振って、当たり前のように近づく。
「貴弘先輩、何してたんですか?あ。山下先輩、こんにちは」
私は貴弘くんの友達にも声をかけて。
なんでもないことを話しながら、やだぁなんて軽く貴弘くんにスキンシップ。
貴弘くんは気にしていない様子で笑っている。
「彼女の友達と親しくしすぎじゃないのか?」
山下くんは冗談のように言ってくれたけど、私が貴弘くんを狙っていることには気がつかれている様子。
「そんなことないですよぉ。ねー?貴弘先輩」
「んー、友達のつもりなんだけどなぁ。なんか上坂さんのペースにのってるかも」
「私のせいですか?貴弘先輩が話してくれるから調子にのっちゃってるだけです。…でも、だからって…無視はしないでくださいね?」
少し気弱になって、お願いする。
もちろん、あなたのことが好きだから、無視はされたくないのだと思わせるように。
鈍感でなければ、どこまでかは理解できるだろう。
勝負を少し仕掛けてみた。
惚れさせるのが目的。
別れさせるのが目的でもない。
落とせるかどうかは、茜と貴弘くんの絆次第。
脆かった。
「しないしないっ。上坂さんと話しているの楽しいし。たまには上坂さんからも声かけて」
突っぱねられれば、身の固い男だと諦めてあげるのに。
更に入り込む隙をいただいた。
男だってモテることに悪い気はしないのだろう。
たとえどんな女が相手でも。
並である貴弘くんは、そこまでモテたこともないだろうし。
軽い。
並であるほうが軽いかもしれない。
簡単だ。
もう一押しすれば、浮気関係くらいにはもっていけるだろう。
つまらない。
やめた。
おもしろくない。
これ以上やっても、もう見えてる。
貴弘くんは落ちる。
いらない。
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