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茜とつきあったまま、貴弘くんは悩んで私を気にしてくれている。
別れさせるのは目的じゃない。
惚れさせたいだけ。
私だけを見てと、口先では言ってみせる。
それもあなたが好きだからと思わせるため。
そんなもので揺らいでくれる男はかわいい。
私は貴弘くんに茜には内緒で、と、放課後に約束を取り付けて。
貴弘くんのいる教室へと向かう。
3年の教室、そのクラスの前で貴弘くんは待っていてくれた。
「貴弘先輩、別に断ってくれてもいいんですよ?茜に悪いし…」
なんて本心では思ってないけど。
かわいく気をつかったふり。
「茜ちゃんのことは…言わないでいいよ」
浮気心だなぁと思いつつ、うんっとかわいく笑って頷く私は、けっこうな女優だと思う。
「貴弘先輩と放課後デートしてみたかったんです。えっと…」
私は貴弘くんの腕にふれて、だめ?って感じに貴弘くんを上目遣いで見つめて。
貴弘くんは照れながらも、そのままにしてくれる。
別れさせるつもりのない私には、どこまでやれば貴弘くんが私に惚れてくれていると思うのかもわからない。
別れるって言われてもなぁとも思う。
それでも近頃、茜の様子は最初のような笑顔もなく、俯きがちで。
別れそうだなとも思う。
勝手に別れたいなら別れれば?
なんて、私に責任感はゼロだ。
だって貴弘くんが踏み留まればいいだけ。
誘惑しているのは私ではあるけれど、私は魔法使いなんかじゃない。
その心が操れるわけじゃない。
男という生き物を弄んで楽しむための言葉と行動を知っているに過ぎない。
欲しいわけでもなかったけれど、腕を組んで歩く帰り道、貴弘くんを見つめるとキスをくれた。
うん…。
欲しいわけではなかったけれど、悪くはない。
ときめく鼓動を感じて、決して貴弘くんが嫌いではないと思う。
何がいいって聞かれても、その単純さがかわいいとしか言えない。
並なのがいい?
「貴弘くん…、もっと…」
私は甘えて、その腕を引っ張って、人の目から隠れていちゃつく。
貴弘くんを見つめると、今のこの時間だけは、私だけを見ていることに満足。
けっこうな小悪魔やってしまったなと自分でも思う。
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