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残暑が厳しい七月になった。
「あ……納豆!」
遥は朝餉の用意をしていて、まだ納豆を買っていない事に気づいた。
納豆が無くてもいいのだが、昨日皆に明日は納豆だと言ってしまったのだ。
「納豆売り行っちゃったかなぁ」
まだ納豆売りの売り声は聞いてはいない。
「探したら見つかるはず!」
遥は屯所から飛び出し、納豆売りを見つけに走った。
だが、通の様子はいつもと違かった。
早朝にも関わらず人が多いし、荷車を押している人々があちこちにいるのだ。
(引っ越し?)
遥は荷車を避けながら納豆売りを探した。
「いつ来るか分からへん。今日かもしれんし、とにかく早よぉ出たほうがええ」
荷車を押す男の会話が耳に入った。
(何が来るのかな?)
ぼんやりとしていると、通から物凄い勢いで荷車が走ってきた。
がらがらと勢いよく回る車輪、「どいとくれ!」と叫ぶ声。
それは直ぐにこちらにやってきて、遥の目の前に来た。
「……あっ」
避けなければいけないのに足が動かなかった。
「危ないっ!」
誰かに左腕を強引に引っ張られた。
足が絡まり、ぐらりと体が傾いた。
しかし人に支えられて転ぶ事はなかった。
「嬢ちゃん、すぐに退かへんと死ぬで!」
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