想い

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「斎藤さん、そろそろ稽古の時間じゃないですか?」 「あぁ」 斎藤は去り際に遥をもう一度見た。 「なぁ」 洗い物をしている遥が振り向く。 「茄子は出さないよな?」 「出すと思ってるんですか?出しませんよ」 遥は大声で笑い、目に涙が滲んでいる。 斎藤は「ならいい」と小さく呟いた。 「……やっぱりか」 「副長!?」 いつからそこにいたのだろうか。 もしかしたらずっと話を聞かれていたのかもしれない。 「斎藤、お前……」 「申し訳ありません!!何でも罰は受けますので」 斎藤がいきなり頭を下げるので、土方は目を丸くして驚いた。 「あ、三木!飯籠が無いだろ?さっき残りの飯を食うために永倉が持ってっちまったから、奪え返してこい」 突然の命令に遥は焦りながら台所を出て行った。 「斎藤、お前が三木とどうなろうが構わない。お前なら任務に支障が出ないだろうし、安心出来る」 「……はい」 土方は一息ついた後、真剣な面持ちになった。 「だが三木を悲しませるな。死にそうになっても生きる覚悟があるか?」 「あります!俺は……死なない」 土方は頷くと斎藤に竹刀を渡した。 「稽古だ!」 「はいっ」 大切な人が出来たなら、その人の為に一生懸命生きよう。 何があっても守る事が出来るように強くなろう。 笑顔を守れるように、俺は生きなくてはならない。 斎藤は力強く竹刀を振った。
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