3889人が本棚に入れています
本棚に追加
/1079ページ
「そんな噂が広まって、京から逃げ出す者が出始めている」
だから先程も荷車を押す人々がたくさんいた訳だ。
戦場になる京から逃げ出すために。
「新撰組はどうなるんですか?」
「戦が始まったとなったら戦うしかない」
京で戦が始まったとなったら、隊士達は戦に出ることになる。
遥は絶対に屯所から出るなと言われるはずだし、きっと何も出来ずに終わる。
「俺の実家に行くか?」
「行きません!私、戦います」
予想外の発言をしたので、土方の目が点になる。
そして涙を浮かべつつ笑いだした。
「笑わせるなよ。お前が戦に出て何するってんだよ」
「だから戦うって……。私にはこの紐がありますから守っていただかなくても!」
ミサンガを見せると、土方は眉間にシワを寄せる。
「駄目だ!お前は留守番だ!」
不機嫌になった土方は部屋を出て行ってしまった。
「遥ちゃん、副長は遥ちゃんを危険な目に合わせたくないんや」
「もういい、土方さんの夕餉のご飯は全部おこげにしてやる……」
「俺はおこげ好きやで」
悪気なく言ったつもりなのだが、きつく遥に睨まれる。
びくりとした山崎は黙りこんだ。
「いくらその紐をつけていて死ぬ事が無いと言っても、心配は心配なんやで?遥ちゃん偉いから分かるよなぁ?」
「今日の夕餉は山崎さんもいらっしゃいますよね?だったら土方さんと同じ、全部おこげですから!」
もう一度睨み付けて遥は部屋を出て行った。
「……だからおこげ好きやねんて」
最初のコメントを投稿しよう!