恋文

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「源さん……」 井上は鉄之助に向けて微笑む。 「心配しなくて大丈夫だ。それより、洗い物さぼって何やってるんだい?」 「いてててっ」 井上にこめかみを物凄い力でぐりぐりとされていると、誰かが屯所に向かって歩いて来た。 (誰だ……?) 目を細めて見た人物は、薬売りの格好をした男だった。 その男は二人の前でぴたりと止まり、笠を外す。 「源さん、分かったでぇ!!」 「山崎さんっ!」 正体は山崎だった。 「……乃木っちゅう男が何者なのか。せやけど至って普通の男やった」 井上は山崎に乃木新の素性を調べるように頼んだのだ。 遥に危険が及ばないように。 「源さんって凄いですね……」 鉄之助が感心する。 「そうかい?当然のことをしたまでだよ」 乃木は武家の長男棒。 それ以外情報は無かった。 両親が見合いを開こうとしたが拒否し続けているだけ。 「何も無かったから良かったが……」 「遥ちゃんが好きだなんて物好きな奴やなぁ」 山崎はげらげらと笑い出す。 「さっき鉄之助にも言ったんだが、そんなこと言ったら遥ちゃんに怒られるよ」
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