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会話もせずたどり着いたのは、北野天満宮だった。
境内の大木の下で、乃木は立ち止まった。
「遥さん、俺は遥さんを好きになってしまいました」
「……それは文でお伝えした通り」
声が震える。
傷つけてしまわないように最大の注意を払って、言葉を一つ一つ選びながら言う。
「好いてる方は誰ですか?どんな方か教えて下さい」
「新撰組の人です。優しくて強くて……私にはもったいないくらいの……恋人です」
「名はっ!!」
乃木の声が強く、大きくなる。
「斎藤一」
「その男は遥さんの側になぜいない!恋人のくせにっ」
「今は用事で江戸に」
乃木は目を見開いた。
(いい機会だ……)
「斎藤さんがいない隙に俺があなたを奪います」
本気の目。
遥が一歩下がると乃木も一歩前に出る。
「奪う。……絶対に!!」
乃木は遥の腕を掴んで引っ張る。
遥は怖くなって嫌だと首を振った。
「ひゃっ!!」
まだ細い体で遥を担ぎ上げる。
「下ろして下さいっ!」
(山崎さん!!)
着いて来ないでなど言わなければよかった。
自業自得だ。
「乃木さんっ!」
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