第一章『追憶の調べ』 ~1~

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神谷 悠司(かみや ゆうじ) 20歳、身長180cm、体重65kg 美形でも不細工でも無い、ありふれた顔立ち。 若干背が高いだけの、ごく普通に二流大学へ通う学生である。 特筆するような経歴も無い、何処にでもいる一般人だ。 敢えて語るならば、世間一般から見て少々不憫な家庭事情を幼少期に経験していた事だろうか。 父親、母親、自分を含めた三人が住んでいたのは、部屋の至る所から雨漏りするボロアパートの一室だった。 父親の怒声と暴力が飛びかう日常、その光景を目の当たりにしても無関心な母親。 そんな日々が当たり前のように繰り返されたある日、僕の前から両親の姿が消えた。 早い話が「捨てられた」のだ。 当時、8歳だった僕は途方にくれる事しかできなかったのを憶えている。 いつかこんな日が来るのではないかと思っていたが、その日は唐突に訪れた。 天高く晴れ渡り、気持ちよい秋風の吹く穏やかな日だった。 それから数日、開かれる事のない玄関のドアを眺めるだけの日々が過ぎる。 それが何日目の事だったか忘れてしまったが、こんな僕に救いの手が差し伸べられた。
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