幼女と研究員

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 例えば携帯電話Aの電池を他の携帯電話Bに移したとしても電池の残量以外には何も変化はない。しかしメモリーを移した場合はどうだろうか。携帯Aのメモリーをコピーした携帯Bは、性能や外見は変わってもデータフォルダやメールの履歴は携帯Aそのものである。  もし同じことを生き物で試しても同じことが起きるだろう。  そう考えた私は自分の記憶を他の脳に書き込む研究をしてきたのだ。 「よし、成功だ」  私は聞き慣れた声で目が醒めた。私の声だ。ということは……  ゆっくりと身体を起こすと白いベッドの傍らに「私」が立っていた。眼鏡の奥から、もう三十路を迎えようというおっさんの瞳が私を見据えている。「私」は手鏡を私によこした。  鏡を覗き込むと5、6歳ぐらいの小さな女の子が映っていた。数年間に渡る研究がようやく実を結んだ瞬間に私はうれしくなった。「私」を見ると私と同じようにうれしそうに笑っていた。 「やった、やったよ!」  二人の声が重なる。私は「私」と抱き合った。インテリで細身だった「私」の身体が、幼女となったいまではとても大きく感じられた。
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