幼女と研究員

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「ちゃんといまの感覚もレポートに書いておけよ」  「私」がリモコンをちらつかせた。そうだ。実験の成功に喜ぶあまりすっかり忘れていた。  あのリモコンはこの実験の前にあらかじめ作っておいたもので、知能を身体に合わせることができるリモコンだ。リモコンのボタンを押した瞬間から私は中身まで五歳児になっていたというわけだ。  文字が読めないこと、今まで造作もなくやってのけていたことができなくなるのがあんなに悔しいということをレポートに記していると、「私」が二つのマグカップを手に給湯室から戻ってきた。 「お、ありがとう」 「いや、私は君なんだから礼はいらないだろう」  それもそうか。笑いながらコーヒーをすすった。が、すぐに吐き出しそうになった。 「なにこれまずい」 「どうした?」 「このコーヒー、まずくないか? いつもよりもやけに苦い」  「私」はきょとんとした表情でカップの中のコーヒーを眺めて、いつもと変わらないと言った。それからしばらく沈黙が続いた。 「なるほど」二人の声が重なって沈黙を破った。「よく考えてみれば子供の味覚にコーヒーは合うはずもない」
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