7210人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
「……あ……!」
駄目だ。こんな時に限って声が出てくれない。せめて大声で叫ぶことが出来れば、兄貴が「煩いぞ」とか言いつつ、来てくれると思うんだけど……。
まさかこの家は訳あり物件だったのか?
俗に言う、座敷わらし?
う、うおぉ……。
何でよりによって俺の部屋に出んのさ!
「何を驚いているんだい? 僕は君をずっと前から知っているのに」
そう言い、徐々に近付いてくる少年。まさかの死亡フラグ? どこぞのホラー番組に投稿出来る勢いだぞ、こいつ。
つーか、
「知ってる……?」
やっと声が出た。
消えてしまいそうな小さな声だけど。
「うん。僕は君を知っている。そうだね、例えば君が十年前の記憶が無いのも知っているし、好きな女子のタイプも知ってる」
前言撤回。こいつは座敷わらしじゃなくて、悪質なタイプのストーカーだ!
好きな女の子のタイプはともかく、俺が十年前の記憶が無いのは家族しか知らない筈だ。
親父によると交通事故に遭ったんだとさ。要は昔も今も運が悪いってこと。
まったくもってツイてない。
それ以前に、
「……誰?」
こいつは俺を気持ち悪い程に知っているようだが、俺はこいつと初対面。
……座敷わらしと面識がある人間なんざ早々いないと思うけど。
「そうか。まだ君は僕の名前を知らなかったね」
少年は宙を仰ぎ、言葉を紡ぐ。
「僕の名前は“カエルム”。改めてよろしくね、秋斗君」
最初のコメントを投稿しよう!