栗宮学の人外性

4/26
前へ
/311ページ
次へ
   見ず知らずの女性に呼び止められて、僕は動揺を隠せない。  僕はその場で時間が止まったかのように、静止することしか出来なかった。  声も出ない。  彼女は、こう続ける。 「こっち……向いて」  そう言われたので、僕の顔は自然に、ただ、僕の意思に関係なく彼女の方向に向いていた。  電灯だけの乏しい明かりだけど、至近距離だと彼女の顔がはっきり見える。  白。  白すぎて、蒼白すぎて、心配になるくらい白い肌。  朱色と言うには程遠い、青紫がかった唇。  月も出ていないのに、月光に輝いているような瞳。  そんな彼女は、どこか悲しそうな表情をしていて、儚げで――  それでいて、美しかった。  完成されすぎていて、恐怖を覚えるくらい美麗だった。  可愛いなんて形容は、この人には合わない。  ただただ、ひたすらに美しい。  一目惚れ――だ。  間違いなく、僕の中でのヒロインだった。  向いたら最後、目を合わせたら最後、視点を外すことが出来なくなった。  歪むことも、緩むことも、曲がることも、伸びることも、縮むこともない糸で、瞳と瞳が結ばれてしまったような、そんな気分だった。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

594人が本棚に入れています
本棚に追加