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見ず知らずの女性に呼び止められて、僕は動揺を隠せない。
僕はその場で時間が止まったかのように、静止することしか出来なかった。
声も出ない。
彼女は、こう続ける。
「こっち……向いて」
そう言われたので、僕の顔は自然に、ただ、僕の意思に関係なく彼女の方向に向いていた。
電灯だけの乏しい明かりだけど、至近距離だと彼女の顔がはっきり見える。
白。
白すぎて、蒼白すぎて、心配になるくらい白い肌。
朱色と言うには程遠い、青紫がかった唇。
月も出ていないのに、月光に輝いているような瞳。
そんな彼女は、どこか悲しそうな表情をしていて、儚げで――
それでいて、美しかった。
完成されすぎていて、恐怖を覚えるくらい美麗だった。
可愛いなんて形容は、この人には合わない。
ただただ、ひたすらに美しい。
一目惚れ――だ。
間違いなく、僕の中でのヒロインだった。
向いたら最後、目を合わせたら最後、視点を外すことが出来なくなった。
歪むことも、緩むことも、曲がることも、伸びることも、縮むこともない糸で、瞳と瞳が結ばれてしまったような、そんな気分だった。
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