女警備員の腕前

2/4
383人が本棚に入れています
本棚に追加
/203ページ
「こちらG1異常なし」 腕時計を模した通信機に語りかける一人の女。周囲からは、OLが口許を拭っているようにしか見えないだろう。 ヒノモト国、首都ミヤコ。 世界を相手にした無謀な大戦に敗戦後、名実共に民主主義国家を確立、数十年前に目覚ましい経済発展を記録し、度々の不況に陥るも経済大国の名はまだ手離していない。 その首都だけあり、左右に立ち並ぶビルは摩天楼。 狭間に広がる空は、まだ春だと言うのに、太陽が照り輝いている。 ──暑い 周辺人口が密集しているせいで余計に汗だくになり、化粧が崩れる。 街路樹からは蝉の声。地球温暖化は脅威である。クールビズごときで誤魔化せるはずがない。 ──ああ、クーラーが恋しい 熱気は蜃気楼を発し、視界に移る人とコンクリートのジャングルが揺れている。 しかし彼女は片時も視線を逸らさない。 ぎゃーぎゃー群がる女共。必死に押し戻す警備員。 その狭間から爽やかな笑顔を振り撒く優男。 茶髪に染め、ピアスをつけているが、顔立ちの美しさが品を失わせない。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!