クルセイダー

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 黒天使の嘴がアキラの心臓を捉えたかに思えた次の瞬間、まばゆい光が閃いた。  村人が気付いた時には、黒天使はアキラの背後で倒れ、何やらもがいていた。そして、アキラの首からは十字架が消え、その代わりに彼の右手には、十字の刃を宿した槍――十字槍が握られていた。  その十字槍の刃の一部は、血液で赤く濡れていた。実はあの時、アキラは黒天使の急降下をかわしたばかりか、すれ違い様に刃を引っ掛けていたのである。  長柄の得物を軽々と振るいながら血を払うと、アキラは黒天使へと振り返る。  起き上がる黒天使は見た。天より鉄槌を落とす神のごとき怒りを浮かべる、アキラのその姿を。 「覚悟しやがれっ!」  素早い刺突。左右からの薙ぎ払い、返し。刺突。斜めからの払い上げ、返し。その繰り返し。流れるような槍裁きが、黒天使に容赦なく襲い掛かる。  途中、黒天使は翼を羽ばたかせて衝撃波を放ったが、所詮それはアキラの乱舞を一時停止させるだけの悪あがきに過ぎなかった。波が止むや否や、アキラの槍撃はまた黒天使を蹂躙する。  最後の刺突が、黒天使を勢いよく突き飛ばした。その黒い体躯は、背後に積まれていた樽の山へと消えていった。  ◆◆◆
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