クルセイダー

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 古風な煉瓦の家が立ち並ぶ、マシュロの円村。その中心たる教会が見上げる晴天へと、ひとつの黒羽が空高く舞い上がった――。  刹那、甲高い金属音が屋根の上で響き渡り、二つの黒い影が刃を交えた。  その影の正体は、黒衣の少年と異形の怪物。  少年の握る白銀のクレイモア(巨大剣)と、怪物の手から伸びた鋭利な爪が、真っ向から交錯していた。互いの力は拮抗し、屋根の上なのに動かない。  次の瞬間、怪物――黒天使は自身の特徴のひとつである双翼を羽ばたかせ、後方へと屋根を蹴って飛び上がった。  突然の後退にたたらを踏む少年を見据えた黒天使は、口から無数の火炎を吐き出す。炎が一斉に爆ぜ、屋根一帯が火の海と化した。  だが、火炎は少年を屠るには至らなかった。爆風で瓦が剥げ、黒煙が燻る屋根の中心で、少年はクレイモアを盾として、火炎の一切を防いでいたのだ。  少年――クルスの宿す眼光には、眼前の怪物に対する恐怖など微塵も無い。存在するのは、黒天使に対する純然たる怒りと、この村を守らんとする指命のみ。  クルスも屋根を蹴る。醜悪なる目前の怪物を、この手で駆逐するために――。  ◆◆◆
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