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大聖堂前の広場まで移動した二人が見たものは、まさに衝撃的な光景だった。
セントアンジェロの中心である繁華街ですら、黒天使の濁流に飲み込まれ、数多の命が蹂躙されていたのだ。
頭に汚れた輪っかを乗せ、背中より漆黒の翼を生やした怪物が暴れ回り、町の至る所から悲鳴が聞こえて来る。既に町の中では、教会騎士の死体すら見られた。
そしてその黒き奔流は、今まさに自分達のいる広場まで迫ろうとしている。最後の聖域に縋り付かんとする、無辜(むこ)の民を追い掛けながら。
長得物の十字槍を構えながら、アキラは憎々しげに呟いた。
「あいつらめ。俺達の知らねえ間にこんな所まで。これで俺達の聖域なんぞに踏み込みやがったら、絶対ただじゃ置かねえぞ! なあ――ん?」
ここで彼は、クルスが隣にいない事に気が付く。
「おいちょっと待てこれは――」
そのまさかだった。クルスはアキラの隣を離れ、既にというかとっくの昔に、黒天使の軍勢へと猛スピードで突進していた。
「だからお前、少しは後先考えやがれぇーっ!!」
そんな叫びも虚しく、クルスの目の前には、黒天使の姿だけが映っていた。
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