クルセイダー

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 事の発端となる出来事の少し前、マシュロの中心に聳える教会の中では、司祭の開催する儀式が執り行われていた。  大陸一帯を支配する一大宗教『聖天使教会』の象徴である、腕を組み翼を広げた天使を摸した十字架の見下ろす室内で、木製のベンチに腰掛けた村民達が、司祭の説教に耳を傾けている。  そんな彼等の表情は恍惚としていて、心に澱む蟠(わだかま)りが全て浄化されていくかのよう。精巧に作られたステンドグラスの光が差し込む小さな教会の中で、まさに神聖と呼ぶべき空間が、粛然たる様子で広がっていた。  そんな教会の入口で、クルスは門番として立っていた。  教会の象徴である十字架を首から下げ、肩や胸に銀の装飾を施した黒衣を纏うその姿こそ、まごう事なき教会に属する精鋭『クルセイダー』の証。  やや長い黒髪を揺らす彼の顔は、まだどこかあどけなさの残る端正な顔立ちではあるものの、その目は確固たる教会の一員としての自信の色に満ちていた。  今、彼がここに立つ理由はただ一つ。この村唯一の教会で行われる儀式を邪魔する者を、一切招き入れぬ事。教会の中にいる罪無き人々を、守り抜く事である。
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