悲劇と心傷―トラウマ―

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 聖堂へと逃げ出した黒天使だったが、まだ本殿の中には入り込んではいなかった。  そこは聖堂のほんの入口に過ぎない場所で、四階建ての部分でやっと門の最上部に到達する程の、高く広い空間だった。  壁画に描かれた聖天使が遥かなる頂上から見下ろすその中を、髑髏頭の黒天使は飛んでいた。その醜悪な怪物の到来に中は騒然としていたが、アキラはそんな事などどうでもよかった。 「あんな所まで行きやがって。さっさとくたばりやがれ!」  中心の礼拝堂へと迫る黒天使へと槍の穂先を向け、アキラは力強く叫んだ。 「我、聖天使の御名に於いて、汝を断罪する者。その命を以って、これを贖罪せよっ!」  叫び終えるや否や、アキラの十字槍が燃え上がる。十字に合わせて火炎を広げるその様は、まさに不死鳥のよう。  アキラはそのまま、黒天使へ向け高く跳躍した。そして、一直線にその身体を貫通した。  空中でとんぼ返りをし、壁に槍を刺して虚空で静止する。その黒天使は十字の炎に包み込まれ、やがて――消えた。  たが、安堵する間など全く無かった。あの時怯ませていたトカゲ頭の黒天使が、案の定ついて来ていたのだ。
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