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クルスは呆然となって立ち尽くしていた。
市民を守るべく剣を振るった教会騎士が、目の前で黒天使に首を刎ねられて死んだ。崩れた建物から這いつくばって来た男が、刃を持った黒天使に刺し貫かれて死んだ。燃え盛る建物から逃げ出した女性が、空から飛来した黒天使にさらわれ、屋根の上で食い殺された。
黒い濁流に飲み込まれた繁華街は、まさに血と炎に包まれた地獄絵図と化していた。
クルスは震えていた。顔に手を当て、眼前の惨状を見て言葉を失っていた。
無理も無い。自分の護るべき町が、人々が、惨憺たる有様となっているのだから。
目の前から何かがやって来る。真っ黒な身体に、黒い翼、そして、頭に浮かぶ汚れた輪っか――それを見た途端、クルスはまたもや走り出す。
「我、聖天使の御名に於いて汝を断罪する者。その命を以って、これを断罪せよ――」
炎に嬲られる町の中で、十字の切創がまた閃いた。
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