悲劇と心傷―トラウマ―

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 炎と黒天使に包まれたセントアンジェロの姿は、かつて自分を残して滅んだクルスの故郷と酷似していた。  幼少の頃クルスが住んでいた村は、聖天使教会とはあまり縁が無かったものの、貧しくも長閑で平和な村だった。しかし、突如として起きた黒天使の襲撃により、クルスはその全てを失った。  その後、焼け跡にやって来た聖天使教会の宣教師に拾われたクルスは、修道院で育てられ、あの時の黒天使に対するトラウマと復讐心を認められ、現在のクルセイダーとなったのである。 「――贖罪せよ!」  鮮やかな剣舞が、幾多もの十字を黒い軍勢に刻み込んだ。閃光に焼き尽くされた黒天使が、クルスの通り過ぎた所で火炎の墓標を遺していく。  しかし、それでもなお敵の数は減らない。空は黒天使の天蓋で覆われ、町はまだ炎と悲鳴で包まれていた。  そして、クルスが一際大きなオオカミ頭の黒天使を屠った時――背後から崩れ落ちた煉瓦の壁が、彼の背後から覆いかぶさってきた。  何度も黒天使を蹴散らし、疲労という疲労が全身に纏わり付いていたクルスには、それを払いのける力などもう残されてはいなかった。  煉瓦の山の重みに潰され、クルスの意識は闇へと墜ちていった。
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