悲劇と心傷―トラウマ―

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 ◆◆◆  復旧の目処は、未だに立ってはいなかった。  人々のむせび泣く声が絶える事は無く、増える墓標は留まる事を知らない。  あの忌まわしき日以来、セントアンジェロの宮殿の自室で、クルスはずっと引きこもっていた。自責と悔恨の念を明かり一つつけない暗闇の中に滲ませて、彼はベッドの上でずっと縮こまっていた。  人々を護れなかった。自分はこんなにも弱かった。――そんな負の感情が渦巻く暗い部屋の扉の前で、アキラは一人、苛立ちげにうろついていた。 「くっそ。あん時からずっと、あいつはあの調子だぜ。黒天使はみんないなくなった! 奇跡的にも聖堂はなんとも無かった!! 教皇も、何より俺達の象徴も、みんな無事だった!!! なのになんで、あいつはああなんだよ」  感情が高ぶるあまり、アキラは近くのごみ箱を蹴っ飛ばした。盛大に回転しながら床や壁にぶつかったそれは、少しばかりの中身を散らして横たわる。 「――まあ、あんなに町がボロボロになりゃ当然か。あいつ、セントアンジェロの町見るの、大好きだったからな」  そしてそう呟くと、アキラは廊下のベンチに座り込んだ。
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