悲劇と心傷―トラウマ―

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 クルスの気持ちは、分からない訳では無い。だから、あの惨劇から一週間が経った今でも、アキラは彼の部屋へと飛び込む気にはなれないでいた。  「いつまでこんな所にいるんだい!?」と陽気な様子で声を掛ければ良いのか、「いつまでも腑抜けになってんじゃねえよ!!」と厳しい口調で声を掛けたら良いのか、もはやどうすれば良いのか分からなかった。それ程クルスが落ち込んでいる事は、アキラは扉の辺りからでも痛いほど感じ取れたのである。 「くっそ。ホントマジどうすりゃいいんだ」  俯いたまま長い茶髪をかき揚げ、アキラは重い溜め息をつく。  ふと、誰かの気配を感じ、アキラは顔を上げた。 「アキラ君、またそこにいたのか」  黒い司祭の衣装を身に纏った中年の男が、そこに立っていた。  身長は自分より少し低い位。落ち着き払った低い声は、どこか包容力のある父親のようで、少々禿げた銀髪を乗せたその顔は、優しさに満ちているようだった。  アキラはその人物を知っていたので、思わずその名を口に出した。 「アレサンドロ司教!? どうしてこんな所に?」
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