異端審問局の修道女

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 クルスの怒声が、酒場全体に響き渡った。流石のカミラも、これには怖じけづいてしまう。  ふと、テーブルの方向から「おーい」という陽気な声が聞こえてきた。 「よお姉ちゃん、そんなおっかねえ兄ちゃんといねえで、一緒に俺達と飲まねえかい?」  二人がそちらを見ると、無精髭を生やした中年くらいの男性が、ビール片手にこちらに向かって手招きをしていた。他にも似たような服装をした人達がいる辺り、彼等は農夫なのだろうか。表情といい、息遣いといい、完全にアルコールに身体を乗っ取られている。 「えっ!? いいの? じゃあ行く行くぅーっ!」  クルスに完璧に拒絶され、他に構う人間を失ってしまったカミラには、これを拒む理由など一切無い。カミラはそのまま、何の抵抗も無く、彼等の元へと直行していった。  ――クルスは溜め息をついた。 「カミラめ……。やっと離れてくれたか」  その顔には、やっと五月蝿い人間から解放されたという、安堵と疲労が幾重にも混在した感情が、べったりと張り付いていた。 「た、大変ですね……」  ここで、先程からカウンターにいた女性が口を開く。
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