クルセイダー

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 教会の入口から漏れる司教の声を聞きながら、クルスは眼前に広がる村を眺める。  周囲を森で囲まれ、教会を中心に広がった形で形成されたマシュロの村は、今は村民の殆どが教会の中にいるために閑散としているが、とても穏やかな空気が流れていた。  村唯一の小さな市場では、風に靡く日覆い(シェード)の元で新鮮な食材が並び、簡素な看板が揺れるパン屋からは、香ばしい匂いが風に乗ってやって来る。  ただ突っ立っているだけの退屈な仕事なのにも関わらず、クルスはそんな絵に書いたような長閑な村を見ているのが大好きだった。  司教の声はまだ聞こえている。辺境の村でもこれが聞けるという事は、聖天使教会の力が及ぶ範囲が、そこにまで達しているという事を示す。それはつまりクルスにとって、教会の力を以って人々を護れる場所が増えたという事を意味するのだ。  自分の過去を根こそぎ奪った、忌むべき『彼等』の脅威から――。  その時、クルスは並々ならぬ気配を察した。これは……そうだ。『彼等』が現れたのだ。  次の瞬間、どこからか火の玉が放たれた。それは教会の屋根に当たり、激しい爆発を起こした。
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