異端審問局の修道女

11/17

362人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
 ソフィの様子に、クルスは歯痒い気持ちになった。あの日、故郷を失った自分の元へとやって来た宣教師は、こんな時どのように話すのだろうか。  クルスは是が非でも、この村には聖天使教会に入って欲しかった。だがそれは断じて、己の信ずる神や聖天使に対する、信仰を広く伝播させたいからという理由ではなかった。  正直な所、聖天使教会の力が及ぶ枠から外れ、あまつさえ、教義の浅い者は見ただけで『邪教』に心身を冒されるとまで教えられてきた南方で、こんなにも活気に溢れ、人々の温もりが感じられる村落が存在していたとは、クルスは全く予期していなかったのだ。  だがしかし、いくら穢れの地には見えなくとも、ここは黒天使が生まれているかもしれぬと言われる危険な地域。そのような脅威に最も近い場所であるにも関わらず、それに対抗しうる力を持っていないというのはあまりにも哀れだ。  聖天使教会の信者にしてはあまりにも異端な理由かもしれないが、クルスはそのために、ソフィの住む村に入信するよう誘ったのである。 「そのお言葉は嬉しいです。ですが……」  しかし、ソフィの表情は、未だ困惑したままであった。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

362人が本棚に入れています
本棚に追加