英霊会

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 暗いというより、黒い森だ。  天へと直立する太い幹が何本も立ち並び、隙間無く空を覆う枝葉の天蓋が陽光の殆どを遮っている。足元では腰の丈程もある叢が、侵入者の行く手を遮るかのように広がっていた。  草木という草木が支配する榛蕪(しんぶ)の世界。悪すぎる視界と躓きやすい足場に翻弄されながらも、クルスとカミラは南の森林をひたすらに歩いていた。 「あっ! んもぅ、こんな所に枝があるから、また服が破けちゃうよう……あ、クルスちゃんなら別に見てもいいよお」 「言ってろ」  もっとも、クルスにとってはそんな森よりも、隣で喚く修道女の方が何倍も厄介な存在なのだが。 「それにしても、本当に不気味な森だ」  周囲を見渡しながら、クルスは一人呟いた。  こんなにも鬱蒼とした森であるならば、何かしら虫や鳥類の声が聞こえてきてもおかしくはない。  しかし、なぜかこの森では、それすらも一切聞こえなかった。あるのは二人が地を踏む音。それ以外はただ静寂だけが森を支配し、木々と自分達以外、息吹く者などいないように感じられた。
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