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「? クルスちゃん怖いのお? ならお姉ちゃんが優しく抱きしめてあげる。ほら、私のあったかぁーい胸の所へおいで」
「断る」
「んもぅ、遠慮しないで。ほらほら、きゃ――!」
こちらへと接近してきたカミラが、突然手前にこけた。茂みに隠れた木の根に躓いたのか、そのまま足元の雑草を押し潰す。
「何をやってんだか」
呆れた様子で、クルスはその憐れな女性を見下ろした。
ふと、暗い森の奥から何かの気配を感じた。敵かとクルスは身構える。しかし、森を取り巻く静けさがいつもと変わらない事に気が付き、彼は違和感を感じた。
この感覚は少なくとも、しがない動植物のような、有り触れたものではない。だが、黒天使のような悍ましい類のものでもなかった。それが近付いているならば、空気が慄然とするような感覚に見舞われるのだが。
「どうしたのお?」
隣でカミラが、呑気にそんな事を尋ねている。
その時、森の向こうから、何やら靄のようなものが立ち込めてきた。それはまるで朝靄のように充満し、黒い森を白く染め上げていく。
――なんだこれは。今は昼過ぎだぞ。
クルスの周囲にだけ、張り詰めた空気が広がっていた。
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