英霊会

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 思わず修道院近くの雑木林で早朝起きている光景を思い浮かべたが、こんな出来事がこの時間帯での陰樹林でも起こるのだろうか。クルスには分からない。 「何これぇ? ちょっと奥まで進んで見ようよぅ」 「なっ、おい」  堪らず好奇心に惹かれて、カミラがクルスの手を引いた。ややもすれば転倒する――というか既に彼女は転倒しているが――ほど悪い足場なのにも関わらず、彼女の足は異様に軽い。水気を含んだ土壌を掴む纏綿とした木々の根が、あたかも自ら足の踏み場を与えてくれるかのように。  だがそんな事よりも、クルスはやはり、この靄の事が気になっていた。まず、ひんやりとしていない。それでいて、心に澱む蟠りがスッと純化されるような、どこか清らかな何かを感じた。例えるなら、司教から教会の教えを聞いている時、あるいは、セントアンジェロの本殿の中にいる時に感じるあれと同じで――。  無邪気に腕を引っ張られていくうちに、視界はたちまち白一色で何も見えなくなっていく。そして次の瞬間、レースのカーテンが如く視界が開かれた。  眼前に広がる光景に、二人は息を飲んだ。
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