英霊会

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 己の身体の中で、何かがまた燃え上がるのを感じる。それはあの日、初めて例の写真を見た時に沸き起こったあれと同じ。どす黒い何かをも交えて燃え盛るその感覚は、もはや自力で制する事すらも適わなくて――。 「ちょ、ちょっと待ってよお」  カミラが後ろで何か言ってる。だがしかし、今の自分は暴走する機関車と同義。制御不可の燃焼機関に突き動かされ、ただ前へただ前へと盆地の下り坂を進むのみ。その足を止める者など、もはや誰にも。 「待ってって、言ってるでしょおっ!!」 「――っ! ――!? むぐっ!!?」  突然、クルスはカミラに本気で肩を掴まれた。「邪魔をするな!」と激昂した様子で振り返ろうとしたその刹那、彼の目捷に迫ったのは肌色の双丘。抵抗する間もなく、クルスはその谷間のど真ん中へと顔面を押し込まれた。  しかし、そんな暴挙をしたカミラの表情は、何故か悪戯めいたものではない。むしろ真剣そのものだった。そして唯一開放してある耳の穴へと、彼女は我が弟を窘めるかのように語りかける。 「いい? クルスちゃん。流石にここは冷静になって。クルスちゃんは本当に子供なの。肝心な所で、いつも熱くなりすぎよ。ここはまず、落ち着いて状況を確認する方が先だわ」
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