英霊会

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 屋根の裏は存外に広かった。壁際に立つとちょうど弓兵の死角となり、場所によっては、最も隅からでもこちらが見えない。  なんと絶好な隠れ場所! このまま壁を沿って行けば、少なくとも階段の入口を通るまでは、火矢の豪雨を浴びずに済む。向かって来る敵を斬りながら、クルスは回廊の隅を走った。  ――こんな安全地帯があるとは、愚かな。いや、まさか……。  数歩駆けてから、クルスはある事に気が付く。こちらへと襲い掛かる敵がいると言えばいるのだが、『壁際から襲って来る者』が誰一人いないのだ。まるで、壁際には何かがあるとでも言わんばかりに。  しかし、隅っこから離れると、今度は火矢の餌食となってしまう。あまつさえクルスの背後には、自分が回避した際に流れてきた矢が当たらないようにするために、敵の姿がいなかった。  クルスが見る限り、特に何かがあるようには感じられない。これは単なる考えすぎか? また敵を斬り倒し、壁際を進んで行く。  やがて、カミラの振るう鞭の響きも遠退いていき、クルスは回廊を直角に曲がる位置にまで差し掛かった――  その時だった。  自分が立ってる位置の床だけが、ガコンと斜めに傾いだのだ。
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