紅の姫君

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ラズロが、すぐ目の前にまで迫っていた。 サラはつい目を逸らす。 「……なんつーか、無防備だよな、その格好。 化粧をしたのも初めて見たし、1日でずいぶん色んなサラを見た気がする。 ……お前が来てくれて、嬉しかったのは本当だよ。 違う影武者が来たらどうしようかと、内心ハラハラしてたんだ。 結婚なんて、相手がおまえでなければまっぴら御免さ」 そう言われて、サラは顔をあげた。 はにかんだようなラズロが、そこにいた。 なぜだろう。 頭に血がのぼって、掌が汗ばむ。 急に、10年ぶりに女の格好なんかするからだと、サラはすっかり困ってしまった。 尚もラズロが近づくので、サラは後ずさりした。 しかし、やがて壁際へと追い詰められてしまう。 「……ラズロ……?」 なんだか不安になって、彼女は問い掛ける。 発した自分の声が、心なしか甘い響きを帯びているような気がしてしまった。 ……ルートの真似なんかしていたせいだ。 逃げ場を失って、右手を捕らわれた。
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