指切り

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英士が越してきて、数ヶ月が経つ頃の事だった。 鏡の前でお母さんの手づくりのワンピースを着て、長い髪を三ツ編みにしようと紗和は苦戦していた。 「どうしよう…久しぶりに英ちゃんとあそべるのに。」 英士は最近、何かの用で忙しく、毎日のように会っていた紗和にとっては1週間がとても長く、久しぶりだった。 「貸しなさい。お母さんがやってあげる。」 紗和のお母さんはクスクスと笑いながら、グチャグチャになっていた紗和の髪を慣れた手付きで編んでいった。 「……ねぇ…紗和……。」 途中、紗和のお母さんは静かに言った。 「なぁに?」 「…………英士君、遠い所に引っ越しちゃうんだって。」 「ひっこし…?」 「……ええ、遠い所に行っちゃうのよ………そしたらもう会えなくなっちゃうの。」 気付いたら紗和は英士に会いに走り出していた。 「ウソ…英ちゃんが、とおくにいっちゃう?」 紗和は泣くのをこらえ、英士との待ち合わせ場所の桜並木の下へ向かい夢中で走った。
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