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「涼夜(りょうや)、よーく聞けよっ」
それは、毎夜恒例父の晩酌の席でのこと。
「男はな、好きな女ができたらそいつを守るヒーローにならなきゃいけねぇ」
突然父は俺を呼びつけて、そんなことを言ってきた。
今思い出せば、おそらく酔った勢いでの思いつきだったんだろう。
けれどもまだ六歳だった俺にはそれがわからず、酒のせいでうまく呂律のまわっていない父の話に真摯に耳を傾けていた。
「ヒーロー?」
「そう、ヒーロー!」
「……僕にもなれるかなぁ」
小さい頃からとろくさくて、運動はダメだった。その頃はまだ勉強らしい勉強はしていなかったけど、周りの子が平仮名や数字を覚えていく中でやっぱり俺は遅れていた。
その上喘息持ちで、風邪なんて引けば大変なことになる。
そんな自分に、ヒーローなんてなれるのだろうか。
不安になって尋ねれば、父はおそらくアルコールのせいで真っ赤になった顔をぐっと俺に近づけて、咀嚼したおつまみをぶわっと撒き散らしながらこう言ったのだ。
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