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絹糸を染めたかのように艶ややかな長い髪。前髪は目にかかるよりも少し上の辺りで切り揃えられており、上の方につけられた白いカチューシャが深みのある黒に映えている。
清楚な白いワンピースを身にまとう少女は、現在彼女にはとても似つかわしくない屈強かつこわもての男達に囲まれ、とある雑居ビルの物が多い一室に閉じ込められていた。
すまきにこそされていないが、後ろ手に手錠をかけられているし、両足首は椅子の足と縄で結ばれていて、とても逃げ出せそうな格好ではない。彼女はふぅ、と憂鬱げにため息をついた。
「……遅いですわねぇ……」
彼女の小さな呟きは男達には届かなかったらしく、特に何の反応もない。どうも男達は彼女を人質に金銭を要求するつもりらしく、大声で話し合いをしていた。
彼女は大きな、少々垂れがちの目を伏せた。濡れた黒曜石と見まごうほどの美しい瞳は、通常こういった場面で感じるような怯えやおそれ、不安といった色を宿していない。
あるのはたった一つ。
誰かに対する、絶対的な期待。
話し合いがまとまったのか、男達がばらけ始める。一人が公衆電話に向かうため、外に出ようとしていた、その時だった。
手がノブに届く前に扉が開く。驚き、わずかに隙を作った男の顔に、靴底が叩きこまれた。室内の空気が一気に張り詰める中、少女は一人、桜色の唇を三日月型に歪めた。
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