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――――イタイ。
昨日殴られた顔は、見る影もないくらい腫れてる。
『なんでアタシを殴るのよ……』
そう聞いてみたい。でも恐ろしくて聞けないわ。だって会社から帰って来たあいつはアタシを物みたいに扱うんだもの。
アタシ、山浦 和美(やまうら かずみ)は今年二十九歳になった主婦。春生まれだけど花なんか好きじゃないし、寧ろ嫌いだ。
春は渉(わたる)と結婚した時期でもあり、渉の暴力が始まった時期でもある。
あいつが言うには、会社の上司からイジメにあってるらしい。しかも女の上司。
その人はアタシと同い年だけど、三十二歳の渉の上司。つまりは女より格下なのが気に入らないということだ。
その女上司は会社の社長の娘で仕事はできる人らしい。それなら従うのが世のサラリーマンの勤めだろう。何が“イジメ”よ――、三十二歳にもなって恥ずかしい。
でも男という生き物はどこか女を見下している節がある。だからきっとアタシを殴るんだよね。
「イタタッ……」
アタシは昨日殴られたあたり、左眉の辺と両腕の痣に湿布を貼った。
――――イタイ。
鏡を見て湿布の位置を確認しながら顔に貼る。紫色に腫れ上がった顔なんて自分でも見たくない。
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