∥解放∥

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  ツバキの好みが分からない。だから、 取り敢えずイチゴとレモンというオーソドックスな2種類を買った。 カップに限界まで積んだ氷の山が歩く振動で零れ落ちて、ヒヤリとした感覚が手から全身へ広がる。 手でコレだ、食ったらどんなに爽快だろうか。 「んぅっ……」 そして夏の風物詩。 イチゴの氷を一気に突込んだツバキが、 ジタバタしながら頭を押さえている。 目をギュッと瞑って堪えている姿が何とも可愛らしい。 戦闘スキルは高いクセに、こういうところには無防備だ。 「こっちのも食べるか?」 俺はそんなツバキにレモンの氷を掬って見せてやる。 俺はこの柑橘系独特の爽やかさ好きだ。 イチゴも嫌いではないが、 やはりコレに限る。 ツバキの好みが分からない故、食べさせてやるのが良いだろう。 「ん、ぅぅ……」 スプーンを咥えたツバキは唸りを上げて悶え出した。 当然だ、 一気に口に詰め込めば関連痛のひとつも起こす。 小さな口をいっぱいに開いて全てを何の躊躇いも無く。 意地悪をしてスプーン山盛りに掬ってやったが、 少しも躊躇わないとは、 そんなバカな。 「悪い、大丈夫か」 少しやり過ぎたかと一抹の後悔を思った矢先、 ふとツバキに渡したかき氷が目に入った。 なんと既に無い。 渡してから2分経っただろうか。 俺のカップにはまだ半分以上残っているというのに、 なんて早さで平らげるのか。 「あー、 もっと食うか」 意外な食欲に、苦笑いで問うてみる。 菓子という物への別腹というやつか、単なる甘党か……とにかく、手持ち無沙汰は悪いような気がする。 というか間が持たない。 内心サイフの危惧を始めた俺の視界の中で、微かだが嬉しそうに光る瞳がコクリと頷いた。  
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