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綾世京。
大手企業の営業マン、綾世巧と洋服デザイナー、綾世洋子の間に生まれる。
家は裕福で、彼女は愛を全身全霊に受けて育った。
だが、彼女はそれを何ら嬉しいとは思わなかった。
正確には“思えなかった”。
何も京とて最初から思えなかったわけではない。
家が裕福であったがゆえに、満たされ過ぎた。
何かを欲しいと言えば――買ってくれた。
何かを食べたいとねだれば――作ってくれた。
何かをやりたいと思えば――やらせてくれた。
満たされ、満たされ、満たされた。
欲求は満たされて、飽和した。もはや、綾世京は何をされても、嬉しさを、ひいては喜びを感じなくなっていった。
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