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血の池に伏して血にまみれた男が一人。
「随分無様な格好ね?」
それを見つめる少女が一人。
「……まぁ、あまり、格好いい状態とは……言えねぇな……」
かすれかすれに漏れ出る声は男の危機を感じさせる。
しかし少女はそれに構うこともなく、
「折角のお顔が台無しよ。
馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを繰り返さないで頂戴。私はそんな風に育てた覚えはないのよ」
しれっとまるでその男の保護者であるように言った。
「……へえへえ。こちらは頭が悪うござんして、すみませんねぇ……」
よいしょ、とゆっくり起き上がる男。ぼとぼとと液体が落ちる。その腹部には大穴が空いていた。
「全く、貴男みたいなのを倒す者を喰うなんて馬鹿で愚図で愚か過ぎてどうしようもないわね」
少女が男の腹部の何もない空間に手を当てると、だんだん腹部の穴が修復されていく。
「下手に弱い奴を喰らうよりかはスリルがあっていいだろ?」
少女は思い切り呆れた顔をして、
「だから私は何度も貴男を愚図だの馬鹿だの愚か者だの言っているのじゃない。私も永く生きているけれど、そんな大々的に動いたことはないわ」
「力が強い故に試してみたいと思わねぇのか?」
はぁ、と嘆息する少女。
「これだから野蛮人は嫌いだわ」
溜め息をもう一つ吐いて、
「いいかしら?私みたいな高貴な血はちょっと動くだけで天変地異が起こってもおかしくないのね?貴男はまだ若造だけども、後数十年経てば私と似たようなものになるの。もうちょっと自覚が欲しいわね。私の血族は貴男しかいないのだから」
「と言われてもよ、この抑え切れない闘争心はどうしたら良いんだよ」
「一時の気の迷いじゃない。たまに発散するので良いでしょ。我慢しない子はいつまでたっても成長しないものなのよ?」
男は降参とばかりに手を上げ、
「血の母の命には逆らえねぇな。わかったよ。大人しくするよ」
「分かっていただけたら光栄ね、ムッシュ」
少女はくるりと振り返り、
「さあ、帰りましょう?朝がやってくるわ」
「朝も平気だろうがよ、俺達なら」
「まあね」
朱に染まる暁光が紅き2人を照らす。普通のはずなのに異常な光景を太陽だけが覗いていた。
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