第零章 ケガレナキオトメ~現在

3/3
1545人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
 私はご主人様を愛している。彼も私のことを愛してくれている。これは運命なのだ。私はご主人様と出逢うために母の体を這いずり出、彼は私を愛するためにいろいろな恋愛をし、私を幸せにする経験を積むために、他の女と結婚したのだ。  そう、ご主人様には名ばかりの妻がいた。二人の愛はとうの昔に冷め切っていたが、世間体と財産のために、二人は別れられないでいた。  私は植野家に拾われ従えている身だが、私たちの愛は深く、たとえ奥様でも私たちの邪魔をすることは不可能だった。現にご主人様は、以前までは帰ってくると真っ先に私のところへ顔を出してくれていた。そのため奥様は嫉妬に狂い、私は屋敷の離れへ追いやられることとなったわけだが。それでも奥様の怒りは凄まじく、毎日のように怒鳴られ、理不尽にぶたれることもあった。日に日に私の怒りは蓄積され、ついにこの前……奥様を、……殺してしまった。  遅いな……。もうどれくらい待ったのかな……。  私は行き交う人々の好奇の目(格好が格好なので仕方がない)を気にしながらも、ご主人様の到着を待ち続けた。  早く来ないかな……。だって、ご主人様は人前でもいつものように、冷え切った私の体を熱く抱きしめてくれるでしょうから……。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!