第一章 探偵

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       1  「拝啓 杉本和彦様。 我が状況、燃眉之急に晒され、無礼千万の誹りを覚悟の手紙に付き、ご容赦賜りたく存じます。手前勝手は百も承知で、厚顔無恥な我が切願、まずはお目通し頂けますでしょうか。  不肖私、T大で農学部教授を致しております、植野秀三郎と申します。『探偵小説』、拝読致しました。畏れながら、この小説を熟読玩味し、我が屋敷で起こった事件の真相を解明しうる方は貴方様しかおられないと確信し、出版社を通じて書簡を送らせて頂いた次第であります。  その事件というのは、以前一部マスコミで騒がれたのでご存じあるやもしれませんが、我が細君の転落死事件のことです。  遺書らしき細君の日記が残っていたことと、推理小説で申しますところの『密室』という条件が揃っていたことから、警察では自殺と断定されましたが、私にはどうも腑に落ちません。妻を失った愚生の願望が、疑念を抱かせているだけなのかも知れませんが、どうかこの件、調査していただけないでしょうか。慇懃無礼と受け取られるやも知れませんが、報酬は御希望額を用意致しますので、何卒、お願い致します。御連絡お待ちしております。 敬具」          
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