心の声(篠田編)

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今日、この研究所に若い女がきた。 「萩谷明衣さん…ですね」 事務員の岡崎音々が問いかける。 「はい」 緊張しているようで萩谷女史の娘、明衣ちゃんは固い表情で答えていた。 岡崎女史にそんなに緊張する必要ないのになぁ… こんなんだと黒木さん時動けないんじゃない? 萩谷娘。 「私は岡崎音々といいます。 お部屋にご案内しますね」 俺はちょっとほっとした。 岡崎女史とは色々あって、研究所内会いたくない人物No.1だったからだ。 元々人対応が丁寧な岡崎女史は萩谷娘にも『親切、丁寧がモットーです!』といった造り笑顔で応じている。 よかった。 そのまま俺に気づかず萩谷娘を部屋に案内してくれ… 「久時さん」 ドキーン!! いやいやいや、待て待て待て。 そこで俺向く?? 部屋案内するっていったじゃない。 俺はかなり動揺した。 しすぎて挙動不審な動きで岡崎女史を見た。 「あの…後でお話が…」 なんなんだ。 話って… いや、大体内容わかるけど。 「今夜お時間いただけ…」 「悪いけど」 言葉途中でさえぎってしまった。 やばい。 傷つけたかもしれん。 でもいっぱいいっぱいなんだ、俺も。 「まず新入りさんを少しでも休ませてあげたいんだよね。その話、後じゃできないの?」 後? いやいや、後も嫌だけど。 「あたしなら別に…」 萩谷娘ー!! いらんフォローするな。 苛立ちから舌打ちしそうになる。 「あ! そうですね。萩谷さん、お疲れでしょう?ごめんなさい。すぐにお部屋案内しますね」 よかった… 岡崎女史は萩谷娘を部屋に案内して行く。 罪悪感で顔を見る事ができなかったが、岡崎女史の気持ちを知ってるだけに、優しくもできない。 (頼むから嫌ってくれよ) 岡崎女史は勘違いしているんだ。 俺はけっしていい人間じゃない。 俺は玄関ホールで大きなため息をつき、そのまま外に出た。 さてと、どこに隠れようかな。 《心の声・篠田編》 終
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