夜明けの約束

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少年は私に気づき、立ち上がるとにこっと微笑んだ。 「大丈夫です」 そういう口の端には血が滲んでいる。 ハンカチ持ってなかったかな、とポケットを探ると手紙が落ちた。 「あ、これ……」 「あ? あーーっ!」 慌てて拾おうとしたが、先に少年に拾われてしまう。 彼は表に書かれていた文字を見て、驚いた顔をして私に視線を移した。 「あ、あはははは」 気まずい。 思いっきりラブレターだと気付かれただろうし。 少年は微笑んだ。 思わず見とれてしまうくらい愛らしい笑顔だった。 「はい。これ」 「あ、ありがとう」 「残念だけど、これ、中身入ってないよ。渡さない方がいい」 「え?」 渡された手紙を透かしてみる。 よくわからず、封を切った。 ない、ない、ない! 一番大事な中身を忘れてしまった! 「そんなぁ……」 今日こそは! と意気込みが強かっただけに、床に座り込むほど落ち込んだ。 「じゃあ」 少年の立ち去る気配を感じて顔を上げる。 「待って! なんで中身がないってわかったの?」 厚めの封筒なので、ぱっと見じゃ中に手紙が入っていない事はわからない。 少年は何も答えず、穏やかな笑みだけ残して去っていった。 結局、この日は手紙を渡せず帰った。 手紙に頼るのはやめよう! 直接告白しなきゃ! と思い、それからも兄貴の手伝いで研究所に着いて行った。 いつもトイレで (言う? 言わない?) と悩んだあげく、山峰さんの顔を見ると言えない、そんなパターンなんだけどね。 そんな私の良き相談相手になったのが、あの少年。 彼の名前は由宇。 研究所に住んでいるらしい。 14才という年齢を聞いた時には疑ったくらい、落ち着いていて、穏やかな子だった。 「今日は言えそう?」 「無理。つけまつげ取れそうだし」 「そう」 初めて会った時、何故手紙が入ってない事がわかったのかは教えてくれなかったけど。 由宇は毎回トイレ前の廊下にいて、私を待っていた。 配達の時間も日にちも教えてないのに、毎回必ずどんな時間に行っても。 彼は普通の人より頭が良いなっていうのはわかってたし、勘もいいのかな、そんな風に思ってた。 思わぬ相談相手の出現は、私にとっては心強く、配達に付き添うのは由宇に会いたいから、そういう気持ちも含まれ始めた。
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