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もちろん、恋愛対象じゃないよ。
由宇は由宇で、誰か好きな人がいるようで、私の話を聞きながら他の誰かに想いをとばしている、そんな事もあったし。
由宇は私より年下だけど、ずっと年上みたいな、そんな子。
彼との数分だけの会話は、いつの間にか楽しみな時間となっていた。
今日も告白できず、由宇が待つトイレ前の廊下にいた。
つけまつげを理由にしたけど、本当はただ単に勇気がでないだけ。
由宇はお見通しって顔で、手にした本をパラパラめくっている。
むかついて本を奪い取った。
「あ!」
「どれどれ。エロ本なら没収だかんね」
そういいつつ本を開く。
思わず固まってしまった。
見た事のない文字の羅列。
「……これ、何語?」
「ドイツ語」
すぐに返した。
「なっまいきーー」
「ありがとう」
初めて会った時はしおらしさがあったのに、意外と小憎らしかったりする。
「藍さんはさ」
「ん?」
「想いを伝えた後どうするの?」
予想外の質問。
だって告白した後って……
「OKなら付き合いたいの?」
「あったり前! その為に告るんだし」
「普通そうなの?」
「普通そうでしょ」
由宇は頭が良い子だと思う。
でも少し変わった考え方をするところがあった。
だから?
同世代の子供達とうまくいっていないみたい。
「藍さん。告白が終わったら、ここへはもう来ない方がいいよ」
へ?
「なに? それどういう意味?」
「山峰さんにも仕事辞めてもらって、ここから離れたほうが幸せになれるっていう僕の予言だよ」
なんとも意味深な事を言う。
こちらを見る事もなく、本に目をおとしたままそういう由宇にちょっとむかついた。
「なによ。目の前でラブラブされると嫉妬しちゃうーーとか?」
挑発的に言うと、由宇は一瞬キョトンとした表情になったが、すぐに微笑した。
「まさか」
当たり前といわんばかりに答える。
「由宇は好きな子とかさ、いるんでしょ?
告白したりしないの?」
からかい返してやろう、そんな軽い気持ちで口にした言葉だった。
だが由宇は思い詰めたような顔になる。
軽口を叩く時とはまるで違う、悲しそうな顔だった。
「僕は……そんなんじゃないから」
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