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「私、由宇と仲良くなりたいんだ。だからもっと知りたい。
うまく行ったらここに来るなとか、言わないでよ」
「だからそれは……」
「私が来ちゃいけないならさ、由宇が遊びに来てよ」
「僕が?」
「そう。私、由宇と友達になりたい。
だからさ、由宇が会いに来て」
「僕は……」
言葉を濁す由宇の右手の小指に、無理矢理自分の小指を絡めた。
「いい? 2週間後のこの時間、またここに来て! その時に私にもっと由宇の事話して聞かせてよ。
もし来なかったら、来るまで待つからね。
研究所から追い出されてもずーーっと待つから」
由宇は困ったように俯いた。
私は返事を聞かずに指を離す。
そのまま兄の元に戻った。
◆◇◆◇◆◇
2週間後。
山峰さんに妻子がいる事を聞かされ、失恋した私は、泣き腫らした目で由宇を待っていた。
あんなに素敵な人だもん。
仕方ない。
そう思うけど、やっぱり……辛いなぁ。
由宇に慰めてもらおうと待った。
トイレに行くといって消えた私を兄貴が探しにきたのは、由宇を待ち始めて1時間がたった時。
いつもなら先に来ているはずの由宇は来なかった。
兄貴に引きずられるようにトラックに乗せられ、今後研究所に連れて来ないと言われる。
兄貴の目の前で山峰さんに告白したから、兄貴も気まずいのだろう。
でも私はそれどころじゃない。
由宇との約束を破りたくなかった。
今日会わないと、二度と会えなくなる。
そう思ったから。
無理矢理兄貴に連れ帰られた後、すぐに私はタクシーで研究所に戻った。
夜も更け、もちろん中には入れない。
朝になったら、落とし物をしたといって中に入れてもらおう、そう思っていた。
明日、出直せばよかったのかもしれないが、私の頭の中に、約束を破りたくないという意識が強く、少しでも近くにいたかった。
待ち合わせをしたのは1階のトイレ前だし、こんなところに私がいるなんて、由宇は知らない、わかるわけない。
自己満足でしかないけどね。
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