夜明けの約束

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ん……? 「ゆ……由宇?」 振り向いた先にいた人物は……目を丸く見開いた待ち人だった。 「……すごい顔してるよ」 私は顔をクシャクシャに歪め、由宇に抱き着いた。 きっと由宇は困ったような顔をするだろうけど、そんなの関係ない。 会いたかった。 会えて嬉しかった。 その気持ちをわかってほしいから。 「遅い! 遅い遅い遅い!」 「……うん。ごめんね」 由宇は棒立ちのまま謝る。 「私、告白したよ。でも山峰さん、奥さんと子供がいるんだって」 由宇の体がピクッと動く。 知らなかったんだなって、なんとなくわかった。 うん、そうだよね。 知ってたら私に告白をやめさせてたよね、由宇の性格なら。 「私は勇気、出したよ。 だから由宇。由宇も勇気だしてよ」 体を離し、由宇の顔を見上げた。 由宇は不思議そうな顔で私を見ている。 「好きな人いるんでしょ? 会いに行きなよ」 そう口に出した時、胸がちくっとした。 (……ん?) なんだろ、この感覚。 由宇は俯いている。 私と同じくらいの身長だから、俯かれると表情がよく見えない。 顔を覗き込むと、由宇と目があった。 悲しそうな瞳。 なんとなく、もう一度抱きしめたい衝動にかられ、手を伸ばすと、その手を由宇につかまれた。 「藍」 心臓がドキッとする。 「な、な、なに?」 「藍はすごく前向きだね」 「うん? そう?」 「うん。そう。僕がどこから来たのかとか、なんでここがわかったのかとか、何故ここが明るいのかとか……思わない?」 由宇に言われて自分の状況に気づいた。 そういえば……なんで由宇がここにいるんだろう? 山の中から来たよね? あれ? 研究所とは逆? 非常口とかあるのかしら? それに、さっきまで真っ暗でほとんどなにも見えなかったのに、なぜだか由宇の周囲が明るい。 懐中電灯を持っているわけじゃないのに。 「んーー…… っていうかさ、私の話聞いてる?」 「え? いや、だからさ……」 「私、そんなのどうでもいいもん。 由宇が来てくれたから嬉しいし、明るいなら怖くないし」 私の言葉に由宇はポカンとした表情を浮かべた後、笑った。
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