夜明けの約束

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その時、鳥の鳴き声が聞こえてきて、2人共に顔を上げる。 木々の隙間から僅かに日の光が射してきた。 「夜明けだね」 由宇の言葉に頷く。 「藍を家に送ってもらうえるように頼んでくるから、藍、もう少しここで待ってる?」 由宇はゆっくりと私の側から離れていく。 「待って!」 思わず由宇の手を掴んだ。 「うん? まだ怖い?」 私は首を左右にふる。 「答え、聞いてないから」 そう言った後、心臓がバクバクと早く動いた。 由宇は柔らかく微笑む。 「僕も……会いに行くよ」 「……本当?」 「うん。すぐには無理だけど、自信がついたら」 なんの自信なのかは、もう聞かなかった。 由宇があまりにも嬉しそうに笑ってたから。 多分、想う相手の事を考えて、それだけで幸せな気持ちになっているんだろうな。 すごく切ない。 山峰さんに振られた時より、胸が痛かった。 うん。 そうだよね。 私、由宇を…… 山峰さんに振られたその日に、自分の本当の気持ちに気付くなんて、なんだか調子いいよね。 でも、由宇の心に私の入り込む隙間はない。 それは私が一番わかってた。 由宇はもう一度空を見上げる。 釣られて見上げた。 深い群青と、白がまざりあう不思議な空。 「約束だよ。ちゃんと想いを伝えたら、報告に来て。 慰めてあげるから」 「……気持ちだけでいいよ」 「本当、かわいくない」 由宇と交わしたあの日の約束。 あの日を最後に、私は研究所に行く事はなくなった。 でも由宇は私にいつか会いに来てくれる。 そう思ったから、由宇にわかるように、大学を卒業した後、就職しても実家に留まった。 私、何年も待ったよ。 恋人ができて、結婚して、子供ができて…… 正直、由宇の事を忘れてる事も多い。 それでも夜明けの空を見上げるたびに、必ず思い出すんだ。 暗闇に光を纏って現れた、不器用な男の子の事を。 生きる事を諦めたような目をしていた彼が、私に見せてくれたあの笑顔で、大切な人と笑っていて欲しいから。 彼の自信に繋がりますように、と祈り続ける。 また会えるその日まで。 ◆終◆
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