If

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人生に『もしも』があるのなら。 私は貴方に会う日に戻りたい。 人生が『もしも』をくれるなら。 私は貴方の為に使いたい。 ◆◇◆◇◆◇ あれは、私が事務員として研究所にきてから、半年後の事。 なにもできない研究員がいる、そんな噂を偶然耳にした。 研究員として雇われているのに、なんの知識も経験もないって。 すぐに誰の事かわかった。 篠田久時。 所長の知人の息子とかで、所長に媚び売るために、無理矢理押し付けてきたと、そう聞いてる人物だ。 20代後半の優しい雰囲気をした男性。 違うわね。 優しいだけの男性。 軽薄な口調や、だらしない服装。 にやにやしているばかりの顔が、私は嫌いだった。 女と見ればすぐに口説こうとするところも、苦手。 でも彼は、私にはあまり話しかけてこない。 それも少しだが、気にいなかった。 「岡崎さんはいつも綺麗だねーー」 所長の仕事のパートナー、水谷さんにお茶を出す時、彼はいつもそう言ってくれる。 私は容姿に関しては自信があった。 手入れも怠らないし、維持するための努力もしている。 他人に綺麗だと思われたい。 それだけが生きがいなのが私、岡崎音々という人間だ。 男性はみんな私に興味を持つはず。 それなのに、篠田久時は私には全く見向きもしない。 その事が私はおもしろくなかった。 なにか理由をつくっては話しかけたりもした。 でも彼は私の顔を見ない。 いや、見ようとしない。 (無能な研究員のくせに……) いつか絶対惚れさせて……捨ててやる。 そう思った時、既に私は彼に夢中になっていたのかもしれない。 なにもできないから、仕事を与えられない。 そんな彼はよく、庭にあるベンチに寝転んでいた。 これで給料を貰ってるんだから詐欺同然。 研究員の間で不満は多い。 でも所長の知人だからって、皆、誰も口にだして咎める者はいなかった。 私はベンチで彼の姿を見かけるたび、つまり毎日、彼に話しかけた。 天気の話をしたり、テレビ番組の話をしたり。 ろくな返事が返ってこないとわかってたけど、でも、彼は私の話が終わるまで側を動かない。 聞いてくれている。 だからあの日もいつものように、たわいない話をしていたの。
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