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世界は変わり、その中心に座するは一人。
赤と黒の装束に身を包んだ女性がただ一人で、二人の前に現れた。
手には笏を持ち、光沢のない目算二メートルの黒髪を一つに束ね、絢爛な座布団の上に威厳と共に座している。
「よく…、来たな。待ってはいないが、望んではいたぞ」
女性は言う。
その言葉の意味は彼にも彼女にも推し量れなかった。
それでも彼女は口を開いた。
死んでいるのなら、彼女に怖いモノなどあんまりなかった。
「あなたは誰ですか?」
頑張って平静を装ったが、見透かしたように女性は笑みを浮かべる。しかし、質問には答えた。
「閻魔と言えばワシであり、ワシと云えば閻魔だ」
「閻魔……」
彼女に驚きはあまりなかった。
自分が死んでいる時点で、もうほとんどが驚きに値しないのだ。
横に並ぶ彼もまた、驚きらしい驚きはなく、そもそもとしてまともな感情すら窺えなかった。
「ふむ、肝は座っているようだな。感心感心。では、早速本題へ話を移ろうか」
特に反論のない二人は、一応、聞き流すことにした。
女性が閻魔だとしたら、この次に行われるのは天国と地獄のどちらに送るかの査定だということは常識として二人共知っている。故に、そう身構えることはなかった。
次の女性の言葉を聞くまでは──
「さて…、お前達。──死ぬのと死神になるの、どっちがよいかな?」
女性は笏で口元を隠して、美しく笑った。
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