死は転がるようにやってくる

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彼女は揚々と歩いていた。 今日の夕食のメニューを考えながら、帰路を進む。 不意に、人気の少ない帰り道に見慣れない人物を見つけた。 ボサボサにはねた頭髪に、不精に伸びた髭。 くわえた煙草も心なしかひしゃげているようで、綺麗とは決して言えない風貌の男性だった。 目が合って、慌てて反らす。 どことなく危なそうな人だと、彼女は思った。 君子危うきに近寄らず、を実行してサササと彼女は歩調をあげる。 男性の前を越えて安堵する。 さて、と気を取り直して、再び夕食のメニューを決める為、思考の海に飛び込んだ。 暫くして、ふと思い出す。 (そうだ、醤油が切れてたんだった) 夕食を決める過程で醤油が切れていたことに気付き、彼女は立ち止まって、すこし考えてから振り返った。 最寄りのスーパーに行くには来た道を戻る必要があったからだ。 振り返ったまま、彼女は再度立ち止まった。 立ち止まらざるを得なかった。 彼女の眼前には男性が背中を向けて立っていた。 先程、目の合った男性だった。だが、先程とは差異が一つあった。 男性の手には煙草ではなく、 ――ナイフが握られていた。 (・・・っっっ!!) 心中で驚愕する。 声が出なかったのが不思議なくらい彼女は驚いた。 脳裏に死が過るが、そのナイフは自分に向けられたものではないと気付く。 彼女の後ろを歩いていた少年が襲われていた。 彼女にはその少年に見覚えがあった。 (あ、あれって徳川くんじゃ・・・!) その少年は高校時代の彼女の同級生であった。 知り合いが襲われていると知って、彼女は驚きを抑えて考える。 (助けないと、助けないと!) うまく焦点の合わない思考で周囲を見回す。 見渡す限りに真っ暗で人の影すら見当たらない。助けを呼ぶ、という選択肢はないことを理解した。 (だったら・・・!) 彼女は見回した際に見つけていたコンクリートブロックを手に取る。 それを持ち上げ、振りかぶる。 彼女の細腕では小さなコンクリートブロックですら重く、腕と足を震わせながらなんとか頭上まで持ち上げた。 そして、そのまま背中を見せたままの無防備な男性の後頭部へと打ち付けた。
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